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Eli & Ben イライとベン

イスラエル映画 (2008)

中学生のイライの3つの経験を描く 真面目なドラマ。子供向けというには、内容が厳しすぎる。イライは、クラスで一番の親友レイボを、本人から聞いた話を元にして告発し、市の職員で建築家でもある父が汚職で逮捕された時、父について分かった情報を警部に内通しようする。しかし、実際には、イランはそんな悪い少年ではない。レイボを告発したのは、クラスの虐められっ子ロテムが レイボにレンガで頭を殴られてケガをした時、2週間の停学、プラス2つの罰が科せられた。しかし、彼の父親は 校長を買収する形で停学1日だけにしてしまった。それを知り、ロテムに同情したイライが、この「腐敗した行為」を学校新聞に書いて告発したのだ。その背景には、イライの父が、不正行為、背任、収賄、利益相反の罪で逮捕されたことがある。最初 イライは、愛する父を信頼して同情するが、父の話の中に嘘がいくつもあることを徐々に悟っていき、限界を超えると、父と決定的に離反する。彼が、「腐敗した行為」に対し厳しい姿勢に転じたことが、レイボ告発の背景にある。この映画の脚本で特筆すべきことは、担当の警部が イライと信頼関係を築くため、イライの女性関係についてまでアドバイスすること。しかも、それは なかなか穿った忠告で、イライはそれに従い想定外の恋に落ちる(これが3つ目の経験)。結果として、イライは、父について不信なことが起きると、すぐに警部に相談するようになる。警部は、それに対して最優先で応える。そして、イライの父が 最悪の行為に走ろうとした時、イライはそれを止めてくれるよう警部に頼み込む。こうした展開を映画で観たことは絶えてないので、非常に新鮮であると同時に、イライの切羽詰まった心境が手に取るように分かる。非常に残念なことは、DVDに入っている英語字幕の質が悪いこと〔ネイティブ・スピーカーの翻訳ではない〕。意味不明の箇所は、画面に表示されるヘブライ語の字幕をキーボードに打ち込んで自動翻訳にかけたが〔お陰で、ヘブライ文字の入力には慣れたが〕、その精度も高くないので、訳を諦めて飛ばした部分が何ヶ所もある。

イライは、テルアビブのすぐ北にあるヘルツリーヤ市に勤める建築家の息子。父は、建築の許認可をする、その部門のトップ。しかし、同じ建築家で、イスラエル賞も受賞する祖父から見れば、建築家としての創造性を放棄した失敗者にしか見えない。そんな父が、ある日突然、イライの目の前で逮捕される。罪状は幾つもあるが、メインは許認可に手心を加えて50万ドルを受け取った収賄の疑い。イライは、他にもいろいろな問題を抱えていた。クラスで憧れていた女の子シェリーにデートを申し込み、すげなく断られたこと。一番の親友レイボが、クラスの虐められっ子ロテムの頭をレンガで殴るところを見てしまったこと。父を逮捕した警部は、それまで一家全員の携帯まで盗聴していたため、イライがシェリーに憧れていたことまで知っていた。そこで、イライが、警部への鞘当てに、50万ドルの “嘘の隠し場所”〔イライは、父が受け取ったとは信じていない〕を友達に電話で教え、盗聴していて、それを信じた警部が無駄骨を折らされた時、警備は、イライを咎めるだけではなく、国外逃亡した際に受ける罪の重さ、そして、シェリーの攻略法まで伝授する。イライは、その教えに従い、シェリーの一番の親友のヒリットにデートを申し込み、OKをもらう。しかし、イライには、もっと困ったことが起きた。それは、取調べから戻ってきて自宅監禁状態になった父が、夜中に、イライの部屋の天窓からこっそり抜け出て、どこかに出て行ったこと。父の無罪を固く信じていたイライは強い衝撃を受ける。イライはすぐ警部にメールを送り、翌日喫茶店で警部と会う。しかし、面と向かうと、昨夜のことを打ち明けることはできなかった。しかし、父の天窓からの脱出は再び実行され、今度は、イライも跡をつける。父は、迎えに来た車でどこかに去るが、その車を運転していた男の顔が、翌日のTVに贈賄疑惑の人物として映り、父が、その人物を「TVで見ただけ」と行った時、イライの父に対する信頼は一気に崩壊する。学校では、ロテムに全治一週間以上のケガを負わせたレイボが1日だけの停学で済んだことに疑問を感じたイライは、レイボに理由を尋ねる。2人は一番の親友同士なので、レイボは、職員室にエアコンを入れ、校長室に大きな水槽をプレゼントしたためだと教える。親友でも何でもないロテムだが、苦しむ様に同情したイライは、父のやった汚い行為への反撥もあり、学校新聞にレイボの父の行為を投稿する。記事のタイトルは、『レイボの金魚』。この記事は全生徒に読まれ、ロテムの母からは感謝され、レイボは激怒する。しかし、イライには、さらなる難題が降りかかる。父が、偽名の、独身と記された偽造パスポートを入手したのだ。これを見つけ出したイライは、パスポートを持って警察署に行き、警部に面会する。もう少しで、パスポートの存在を明かすところまで行くが、邪魔が入って断念する。破局は一気に訪れる。レイボからは今夜7時に校庭に来いとの呼び出しがあり、ヒリットからは(レイボから自分がシェリーの代理だったと教えられた)パンチを食らって絶交宣言され、帰宅すると、父は今夜8時にクルーザーで国外逃亡すると打ち明けられる。イライは、悩んだ末に警部に電話し、8時の逃亡を告げ、事前に説得してくれるよう頼むが、警察の範疇を超えた行為だとして 断られる。イライは、自ら止めに行こうと自転車を走らせるが、その前に、7時の約束を破られたレイボとその配下が立ち塞がる…

主役を務めるイライ役のユヴァル・シェヴァ(Yuval Shevah)は、1994.4.25生まれ。2008年4月以降の撮影なら14歳。赤毛でそばかすのある普通の中学生。TVに少し出た経歴があるだけなので、この作品が代表作。難しい役どころを見事にこなしている。ついでにロテム役のアダム・ケネス(Adam Kenneth)についても触れておこう。1995.3.23生まれ。ユヴァルより1歳年上。2年後の『Hadikduk HaPnimi(僕の心の奥の文法)』(2010)〔将来、紹介予定〕に脇役で出ているだけ。英語名なので、最近の移住者なのだろうか?


あらすじ

イライが自転車に乗っている。「去年みたいなことが起きたら、何事にも動じなくなる。数ヶ月前だったら、僕は絶対に信じなかったろう… 夏に雨が降るとか、魚で停学から逃げられるとか、原子に心臓があるとか、立ち上がって戦う勇気が僕にあっただなんて」(1枚目の写真)。ここで、タイトルが表示される。「ELI & BEN אילי ובן 」。父ベンと 一人息子のイライが鏡の前で髪をといている。父は、イライの髪を、自分の髪のようにオールバックにしようと髪をくちゃくちゃにして遊ぶ(2枚目の写真)。2人は、とっても仲の良い親子というイメージだ。
  
  

いきなり授業風景に変わる。イライがずっと見ているのは(1枚目の写真)、斜め前方の席に座っている金髪の少女シェリー。見られていると感じたシェリーが振り向くと、イライは慌てて目を逸らす。次に映るのは、ガキ大将のロテム(2枚目の写真、左側最後列で、授業など聴いていない金髪の子)。教師は、「サウル王が、最後に負けたのは、貪欲だったからだ」と話す。サウルとは、旧約聖書『サムエル記』に登場するイスラエル最初の王のことだが、「貪欲תאוות בצע」という表現はどうみても疑問だ。サウルが神に見放された理由は、①不従順(神に全幅の信頼を置くのではなく、 自分の判断を入れるようになっていく)、②礼拝の生活を怠ける、③憎しみ(ダビデに対する)、であって「貪欲」ではない。教師は、この後、「貪欲とは、何だ?」「誰か?」と生徒に発言を促すと、一番真面目なロテムが手を上げる(3枚目の写真)。「ミダス王のようになることです」。ミダスはギリシャ神話に登場するフリギアの王。ミダスは、黄金に取り憑かれ、ディオニュソスから触れたもの全てを黄金に変えられる力を与えられた人物。確かに貪欲だ。教師も、「よくできた」と褒める。これだと、「サウル=貪欲」になってしまうが、イスラエルでは、旧約聖書とは別のことを教えているのだろうか?
  
  
  

この会話の隙を突いて、イライは、こっそり窓を開ける(1枚目の写真)。外では、下級生と思われる2人が大きなラジカセを持ってきて窓辺に置く。そして、教師が、「ミダス王は…」と言い始めると、終業のベルが鳴る。それを聞いた生徒達は一斉に立ち上がる。教師が腕時計で時間を見て、「まだ20分残ってるぞ!」と言うが、生徒達は教室を出ていってしまう。窓辺に置かれたラジカセのスイッチを切った教師は、「イライ」と呼ぶ。外に出ようとしていたイライは、出られなくなる(2枚目の写真)。教師が、なぜ犯人をイライだと確信したのかは分からない。しかし、確信がなければ、いきなり、「反省文、もしくは、『もう二度としません』と5000回、もしくは、クラス全員にピザ」とは言わないだろう。イライは、反省文を選ぶ。「ノート10ページ分。日曜までだ」〔イスラエルの学校の休みは土曜日だけ〕。ここで場面は変わる。「僕のパパは、ヘルツリーヤ市の建築家。だから、市内に何かを建てようと思ったら、パパの承認が必要だ」。イライの父ベンは、ヘルツリーヤ市の中で許認可を与える職員なのだろうか? この部分は、日本とシステムが違うので、よく分からない。東京都なら都市基盤部が建築物の許認可を行っている。そうした職員は建築士の資格を持っている人もいるだろうが、建築家ではなく、あくまでお役人だ。さて、市役所の中にあるベンのオフィスに、開発業者の社長らしき男がやってくる。ベンは、「我々に関する限り、何も変わっていない」と言う。男は、「ベン、役人の殻から出たらどうだ。我々が、ここで何をやっとるか知らないわけじゃないだろ?」。「そうだな。ここに赴任してから4年しか経ってないが、内部情報には感謝してる」。「情報を受け取ったとなると、面倒なことになりかねんぞ」。「私を脅す気か?」。こうして、ベンは面倒に巻き込まれていく。
  
  
  

イライが、仲間達とサッカーの真似ごとをして遊んでいると、父が迎えにくる。父は、学校から呼び出しをくったのだ。車の中で、イライは、「彼女、何て言ったの?」と尋ねる。「彼女って、カウセラーのことか? こう言ってたぞ。お前はいい子だが、悪戯なとこがあるって」。「それって、悪いこと?」。「悪戯を罰するのには、もう うんざりだそうだ」。言葉とは裏腹に、鷹揚な父は、約束通り、イライを波止場に連れて行く。そして、公道ではない埠頭で、運転の練習をさせる(1枚目の写真)。「この日は、何もかもダメになる前に、僕たちが一緒に楽しんだ最後の時となった」。「ママには言うなよ」。イライは、その後、マリーナに停泊している父の小型クルーザーに乗る。そして、デッキの先端近くに、ナイフで「イライאיל」と彫る(2枚目の写真)〔重要な伏線〕。この幸せな一時は、新聞社のカメラマンが写真を撮り始めたことで、不吉な影を落す。帰宅したイライは、待っていた母に、「僕、いい子だけど 悪戯なトコがあるんだって」と話し、母はイライにキスする。イライが2階に上がって行くと、父は、「成績が少し落ちてるそうだ」と妻に話す。「息子が勉強をサボっても褒める父親って、あなたぐらいかしら」。「大げさに言うな」。「私にばかり意地悪な役を押し付けないで、たまには交代してよ」。家には、一流の建築家だった祖父も来ていた。この老人は、今朝、家から出て車に乗る時、勝手に写真を撮られたのは、受賞が近いからだろうと話す〔祖父がもうすぐ受賞するのはイスラエル最高の賞なので、このような隠し撮りは、「イスラエル賞の名建築家の息子」云々の記事に使われる可能性の方が高い〕。父ベンにとっては、赤信号が点き始めたことを示す悪い知らせだ。
  
  

この映画には、メインストーリーの他に、2つのサブ・ストーリーが走っている。その1つが、ロテムとレイボについての話。ロテムは 虐められっ子で、レイボはガキ大将。レイボ達がたむろしている場所は、ロテムの通り抜けが禁止されていた。しかし、ロテムには、そんな不条理な決まりは納得できない。そこで、そこを通過しようとする。それに気付いたレイボは、「どうした? GPSを忘れてきたのか? 失せろ。それとも、決まりを守る気がないのか?」と言う。ロテムは、「ここは、公の場所だ。決まりなんか無意味だ」と反論する(1枚目の写真)。レイボは、ロテムの小柄な体をつかむと、後ろ向きにし、「決まりを思い知らされる前に、とっとと立ち去れ」と言うが、ロテムは先に進もうとする。「あと一歩で、お前のあばずれ母さんは、お前の見分けがつかなくなるぞ!」。「あばずれは、そっちだろ!」。怒ったレイボは、落ちていたレンガを拾うと、ロテムの頭を強打する。ロテムは地面に倒れる(2枚目の写真)。「あと1回でも、おふくろの悪口を言ったら、次は石だぞ!」。イライは、その様子を離れた所から見ている(3枚目の写真)。そこに駆けつけた男(教師? 用務員?)は、逃げて行く仲間の1人を捕まえ、「あいつに校長のところに出頭するか、警察沙汰にすると伝えろ」と命じる。
  
  
  

授業中、校長室から戻って来たレイボは、親友のイライに、「2週間の停学。反省文、次回退学処分の警告だ」と耳打ちする(1枚目の写真)〔主人公と 虐めっ子のボスが 親しい友達という設定は変わっている〕。数学の教師〔担任制ではなく教科担任制〕が、すぐ教室を退去するよう促すと、レイボは、ドアのところでイライにウィンクして出て行く。このことからも、2人がこのクラス内で一番の親友同士だと分かる。レイボが出ていった後、イライは、紙の小片を畳んだ通信文を、隣の席の子に渡し、もう1人の手を経て憧れのシェリーに渡る。メモを見たシェリーはチラとイライを振り向く。昼休みの時間中、シェリーは親友のヒリット〔女性〕とずっと一緒。そこに、脊椎矯正具を付けたガル・シュペアー〔男性〕が来て、声をかける。シェリーも嬉しそうに答える。それを見て勇気づけられたイライは、2人の前に行くと、「シェリー」と2度呼びかけるが、ガルと違って無視される。そこで、「シェリー、ちょっと来て」と、ヒリットと引き離す。「何なの?」。「返事をもらってない」(2枚目の写真)。「何の?」。「付き合おうって」。「ああ、それ、ダメよ」。極めてすげない言い方だ。「どうして?」。「ガル・シュペアーが好きなの。あんたと付き合ったら、もうデートしてもらえない」。「ガル・シュペアー? 背中に何か付けた奴?」。「もうすぐ外すわ」。「外すまでの間だけでも、付き合えない?」。「イヤ」。
  
  

学校が終わり、イライが家に近づくと、家の前には何台ものパトカーが停まっている。イライは、帰宅の途中でレイボたちと店に入り、一杯盗んできたお菓子が原因かと思い、急いで塀の向こうに投げ捨てて処分する。そして、そのまま家に向かうが、警官はイライなど見向きもしない。玄関を開けると、そこには不安そうな父の姿が見える。イライは、すぐ父のところに行き、「警察は、ウチで何してるの?」と訊く(1枚目の写真)。「パパが、何か悪いことをしたと思ってる」。「パパが?」。「間違いだ。心配するな」「パパは、数日警察にいることになるだろう。2階に行って、歯ブラシと練り歯磨きを取って来てくれるか?」。イライはすぐに取りに行く。イライが洗面所に行くと、そこにはラフな格好をした男がいて、いきなり、「イライ」と名で呼びかける。そして、「学校はどうだった?」と訊く。「いいよ」。「シェリーはどうした? もう誘ったのか?」。「なんでシェリーのこと知ってるの?」。「ただ、推測しただけだ」。イライは、歯ブラシを抜き取る(2枚目の写真、矢印)。これが、イライとアモス警部との出会いだった。イライが戻ってくると、父は母に「私が許可しなかったから、でっち上げたんだ」と業者の陰謀を示唆する。「ひどいわね」。イライ:「練り歯磨きがなかったから、バズーカ〔チューインガム〕持ってきたよ」。「それでいい。もう歯なんて どうでもいいからな」。1人の警官が、イライのパソコンを証拠品として持って行こうとするのを見た父は、「それは、子供の遊び道具だ」と抗議する。警官は「証拠品だ」と言うが、通りがかった警部は、「そこに置いておけ」と命じる。それを聞きながら、イライは、父に、「あの人、何も言わないのに、僕の名前知ってた。シェリーのことも」と耳打ちする(3枚目の写真)。警部は、大勢の警官に、「いいぞ、ここでの仕事は済んだ。みんな引き揚げるぞ」と声をかける。そして、父を向くと、「ヤシフさん… よければ」と、同行を促す。パトカーに向かう途中で、イライは父に、「警察は、パパが何したと思ってるの?」と尋ねる。「公園のところにショッピングモールを作りたがってた人達がいるって話したろ。警察は、パパが賄賂をもらったと考えてる。パパは、市内に建設する許可を出しただけだ」。父は、護送車に乗せられると、手錠をはめられる。イライはその姿を悲しそうに見る。2人だけになり、母は 祖父に電話をする。「警察の主張では、あのアポロニア計画… 市街化調整区域だった場所を、夫が審議会に圧力をかけ、不適切な資料を提示して税率を引き下げたそうなの。そして、業者から50万ドルを受け取ったって」。電話が終わると、イライは、「ママ、警察は、僕の名やシェリーのこと、どうやって知ったのかな?」と訊く(4枚目の写真)。「何ヶ月も私達の電話を盗聴していたの。だから 何でも知ってるわ。あなたが、携帯で友達に話したことも全てね」。
  
  
  
  

翌朝、イライが玄関を開けて学校に行こうとすると、新聞の一面には父の顔が大きく載っている。その横には、「建築家 着服」の大きな文字(1枚目の写真)。イライは、近所の家に配られていた新聞を全部回収し(2枚目の写真)、街路のゴミ箱に捨てる。学校に行くと、生徒の一人が新聞を読み上げている。「警察によれば、ヘルツリーヤの建築家は、利益相反に対する見返りとして50万ドルを受け取った疑いがある」。そこにレイボが寄って行くと、新聞をひったくり、「こんなデマ、信じるのか?」と言って胸を突く(2枚目の写真、矢印は 取り上げた新聞)。イライは、「ありがとう、レイボ」と感謝し、レイボは、「一番の親友だろ」と言ってお互い手を握る。「ちょっと待って、停学はどうなったの?」。「取り消しだ。停学も反省文も警告もなし」。
  
  
  

イライが帰宅すると、大学(?)で教鞭をとっている母は、「いつもは半数しか出席者がいないのに、今日は100%だったわ」と事件の悪い反響について話す。そこに電話がかかってきて、夫の拘留が48時間延長されたと伝えられる。イライがTVを見ていると、父の弁護士へのインタビューが映る。「50万ドルなど存在しません。私の依頼人は65年型の古い車に乗っています」(1枚目の写真)「彼は、とても正直な人です。多くの人に好かれていますが、地位の高さから、敵もいます」。自分の部屋に行ったイライは、ベロという友達に携帯で電話する。「僕さ、パパがママに、お金のありかを話してるの聞いちゃったんだ」。「どこなんだ?」。「お前バカか? そんなこと話すと思うか? そんなことしたら、殺されちゃう」。「言っちゃえよ。誰にも言わないから」。「タマに誓え」(2枚目の写真)。「誓うよ」。「お祖父ちゃんの家の近くの川の底だ」。この意図的な偽情報は、電話を盗聴していた係から警部に伝えられ、翌日、潜水夫を使った捜索が行われる。何も出て来ないので、警部は、イライが盗聴されていることを前提に わざと嘘の電話をかけたことに気付く(3枚目の写真)。
  
  
  

数日後(?)、放課中にイライが校庭に出てくると、門の外にパトカーが停まっていて、前には警部が立っている。そして、イライを見つけると、こっちと来いと手で合図する。イライは、仕方なく近づいて行く(1枚目の写真)。「何で あんなことをした?」。「パパを早く返して欲しくて」。「私がすき好んで留置場に入れてると思ってるのか?」。「知らないよ」。「いいトリックだったな。そのお陰でどうなったか分かるか? パパは、君のせいで拘留が3日延びたんだ。川の底を全部調べ終えるまでな。パパは、明日、仮釈放される。その後は、2週間の自宅監禁だ」。それだけ言うと、今度は、「ちょっと、車に乗れ」とパトカーに入らされる。警部は、「イライ、君のパパは賢い人だ。だが、時として、『いい人間』でも過ちを犯し、刑務所に入ることがある。慣れていないから大変だ。パパの場合には該当しないだろうが、欝になったり、自傷する人もいる。君のパパが強ければ、乗り越えられる。パパが有罪と決まれば、『ホワイトカラー』刑務所〔ネットで調べると、“white collar prison” はイスラエルだけのものではないが、日本で何に該当するかは不明〕に1年半入るだけで済む」。「それ何なの?」。「特典のある刑務所だ。君は、好きなだけ訪問できるから、君だって乗り越えられるだろう。だが、もしパパがパニックになって国外逃亡を図れば、君はパパを失うことになる」。「僕を怖がらせてるんだ」。「誰にでも起きることなんだ。君には、パパを見守っていて欲しい」(2枚目の写真)「もし、逃亡する気配を感じたら、まず署まで来てくれ。解決策を探ろう。いいね?」。「パパは無罪だ」。「学校に戻っていいぞ」。パトカーを出て、学校に向かおうとするイライを 警部は呼び止める。「シェリーはどうなった?」。「ぜんぜんダメ。断られちゃった。ガル・シュペアーを待ってるって」。「シュペアー? 脊椎矯正具を付けた奴か?」。「もうすぐ、外すんだ」。「誰にでもできるトリックを教えてやる。彼女の一番の友達にデートを申し込め」(3枚目の写真)「ナンパするんだ。数週間付き合え。彼女を愛してるって、みんなにも伝えるんだ。それから、シェリーに鞍替えしろ」。「やったことあるの?」。「2度。1回は君ぐらいの年の頃だ。やってみろ」。「ありがとう」。警部は、最後に名刺を渡す。「持ってろ」。
  
  
  

イライは、警部のアドバイスをすぐ実行に移す。シュペアーの友達ヒリットが1人でいるのを見ると、すぐに、「ヒリット、ちょっといい」と声をかける。「何?」。「ガールフレンドになってくれる?」。「だけど、数日前にシュペアーに訊いたばかりじゃないの!」。「そうだね。君がイヤなら…」。「そうじゃないわ。ホントになりたいの?」。「うん」。「いいわ」(1枚目の写真)。その夜、イライは車をピカピカに磨いている〔車は、フォード・マスタングGTコンバーチブル〕。見に来た母が、「パパも喜ぶわ」と言う。「何時に釈放されるのかな?」。「午後2時よ。でも、刑務所まで迎えに来るとは思ってないでしょ」〔母は仕事、イライは運転できない〕。しかし、翌日、学校が終った後で、イライはタクシーの運転手に声をかける。「アブ・カビールまで行きたいんだ」〔10キロ強南方のテルアビブ市内/ということは、日本のように警察署内での留置ではない〕。「アブ・カビールまで、なぜ?」。「パパが明日出てくるんだ」。「金はあるのか?」。イライはお札を見せる。「いいぞ、乗りな」。「この車でじゃ… ないんだ」。イライは、父の愛車に乗せてもらって刑務所まで行く。無精髭のまま出て来た父は、着いてからも車を磨いている息子を見て不憫に思い、抱きしめる(2枚目の写真)。イライは、途中、運転手に、遠くにある高層ビルを指して、「あれ、お祖父ちゃんのビルだ」と教える。「オーナーなのか?」。「建築家だよ。今年、イスラエル賞をもらうんだ」〔日本の文化勲章のレベルを下げたようなもの。文化勲章は毎年5名強、イスラエル賞は10名強/イスラエルの人口は日本の15分の1〕。父は、途中の店でアイスクリームを買い、イライに与える。そして、車に戻ると、運転手に「海辺まで」言う。運転手は、「自宅監禁なんだろ? 貝殻なんか集めてる時間はないぞ。家に連れて行く」。「海辺だ」。警部の “国外逃亡” の話が頭に残っているイライは、「自宅だよ」と訂正する。父は、「パパに命令する気か?」と怒るが、運転手には「家でいい」と言う〔何を思って “海岸” と言ったのかは分からない〕
  
  

イライは、授業の後、教師に呼び止められる。そして先に提出した反省文について褒められる。「だが、君が述べているこの子は、理由なく自分を責めているな。父親を助けようとしただけじゃないか」。「でも、そのせいで、3日も余分に監獄に入れられたんです」。「彼のせいじゃない。目的をもって良しとしないと」。この慰めの言葉にイライはホッとする(1枚目の写真、矢印は返却される反省文)。「次は、いつ書くんだね?」。「僕、何もしてません!」。「分かってる。だが、万が一に備えて書いておいたらどうだ? また、大胆なことをやらかした時に使えるぞ」〔まさか悪戯の督促とは思えないので、イライの文章力に感心した教師が、次を読みたくなったのか?〕。イライが、父の遅めの “テイアクトのランチ” を持って帰ると、祖父が、「孫は、使い走りになったのか?」と、冷やかす。イライは、父にランチの袋を渡すと、祖父に抱きつく。祖父は、「これをあげよう」、とイライにプレゼントを渡す。父がTVをつけると、ちょうどニュースをやっている。「警察はベン・ヤシフ容疑者を、不正行為、背任、収賄、利益相反の罪で告訴することを考慮中です」(2枚目の写真)。ここで、コメンテイターが分析を加える。「容疑者が有罪であると仮定するのはまだ早急に過ぎますが、アモス・ヤナイ警部は、これまで100%の有罪判決を得て、『有罪チャンプ』のあだ名のある人物です。ですから、法廷でベン・ヤシフ容疑者の顔が見られないとしたら、それこそ非常な驚きです」。この話は、父にとっては苦痛以外の何物でもない。父はTVを消し、席を立つ。イライが祖父からもらった包みを開けると、それは、『Dbook: Density, Data, Diagrams, Dwellings』という2007年の新刊だった〔映画は2008年公開/集合住宅のデザインやプランに関する439ページもある専門書〕。祖父は、イライに、建築家であることの誇りを述べた後で、「君のパパは、この分野でよくやっていた。だが、よく分からん理由から、建築家の本分から逸れてしまい、政治家や政党、果ては、汚らわしい請負業者とまで付き合うようになった」と批判する。祖父は、イライと一緒に家を出て車に向かう。そして、車に乗る時、途中に停まっていた車の中の男のことを、「私服だ」と教える。「私服って?」。「警官だ。君のパパを監視してる」。イライは、祖父がいなくなると、私服の車の開いた窓に手を突く。「何の用だ?」。「手伝おうか? 誰かを捜してるよね?」。「いいんだ。友達を待ってる」。「友達はどこに住んでるの?」。「すぐそこだ」。「何て名前?」。「いいか、坊主…」。「あんた達、パパが家から出ないか見張ってるんだろ?」。「何もしてやせん。立ち去れ」。「時間の無駄使いだ。パパは何もしてない」(3枚目の写真)。イライの、父への厚い信頼がよく分かる。
  
  
  

夜、イライがベッドで寝ていると、ベッドの枠の上に誰かの足が乗る。イライが目を覚ますと、父が、ベッドの枠に乗って、天窓を開けようとしていた。「パパ、何してるの?」。「静かに。寝てろ」。「でも、奴ら、外で見張ってるよ」。「だから、ここから出て行くんだ。静かにしてろ。すぐに戻る」。それだけ言うと、父は窓から屋根に出て行く。そして、裏の塀を跨いで(1枚目の写真)、監視員に見つからないように出て行った。ベッドの上にあぐらをかいて座ったイライは、警部からもらった名刺を見る(2枚目の写真、矢印は名刺、手に持っているのは携帯)。そして、メールを出す。「重要証拠。一生に一度きり。明日14時。アガディル〔店名〕。1人だけで」(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、警部は、アガディルに1人で現れる。イライは先に座って待っている。警部はイライの前に座ると、「上の方からはいろいろ言われるし、今度は君か?」と話しかける(1枚目の写真)。「途中で退出してきたんだぞ。お陰で家内にはブツクサ言われるし、親戚からは変な奴と思われちまった」〔ということは、この日は休日〕。「で、『一生に一度』だと?」。「TVで、あなたのこと言ってた。チャンピオンだって。扱った容疑者は全員刑務所行き」。「メディアは、そういう言い方が好きなんだ」。「僕、どうしても訊きたかったんだ。もし、あなたが間違ってて、パパがやってなかったら、メディアが、『ヘビーウエイト級の有罪チャンプ』と呼ばなくなっても、パパを放っておいてくれる?」。「すごいあだ名だな」。「約束する?」。「君は何を約束する?」。「何を約束して欲しいの?」。そう言うと、イライは泣き始める。「何を泣いてる?」。「僕、もうボロボロ」(2枚目の写真)。その純朴な姿を見た警部は、「もし、君のパパが何もしてなかったら、家に帰す」と約束する。「あなたが言ったみたいに、逃げ出そうとしたら?」。「無罪の人間は、逃げたりはしない」。イライは、昨夜見たことを、どうしても話せなかった。
  
  

翌日、イライが1人で悩んでいると、突然ヒリットが目の前に現れる。そして、強い調子で、「言いなさいよ。なぜ、一度も私を誘わないの? 何もしないし、滅多に話もしないじゃない!」と責める。「そんなムードじゃない」。「パパのことで?」。イライは頷く。「あなたのこと分かるわ。ママが私の弟を産んで腹を立てた時、とても悲しくなったの」。「その時は、どうしたの?」。「簡単よ。自分が世界で一番クールだって思いながら 楽しく遊べばいいの。大事なことは笑うこと。そうしてれば、元通りになれる」(1枚目の写真)。帰宅したイライは、庭に座って寂しくビールを飲んでいる父に、陽気に話しかける。「やあ、パパ。元気してる?」「学校、すごく楽しかったよ」。しかし、父と一緒にいると、どんどん落ち込んだ気分に変わる。夜になり、イライは、ヒリットに電話する。「イライだよ」。笑い声が聴こえる。「何がそんなにおかしいの?」。「電話もらって嬉しいわ」。「君のやり方、うまくいかなかった」(2枚目の写真)。「ダメだった? 今から会わない?」。「だけど、明日、語彙(ごい)の試験があるだろ」。「準備なんかするの?」。「まさか」。「じゃあ、1時間後にボーリング場で」。ボーリングのあと、2人でハンバーガーを食べる。「私の秘密、訊きたい?」(3枚目の写真)「私、おへそに “極” を集めてるの」。「極って?」。「大極のこと。命のエネルギーよ」〔極だけ切り離した彼女の解釈が正しいとは思わない〕「どうして私に申し込んだの? 私、きれいじゃないし、人気もないし、変な髪してるでしょ」。「でも、楽しいよ」。2人は、夜の町に出て行く。歩道橋を歩いていると、自然と手をつなぐ。すると、急にどしゃ降りの雨となる。ヒリットは、如何にも彼女らしく、「雨、飲みましょ」と言って、大きな口を開けて空を仰ぐ。2人のムードは最高。お互いの顔が寄っていき、イライはキスする気でいる(4枚目の写真)。しかし、ヒリットは、急に顔を逸らすと、「さよなら、また明日ね」と言って走り去る。イライは、家に入る前、警備の私服に、「アモスさんに、よろしくって伝えてもらえる?」と言う〔以前、ヒリットに話しかけろと教えてもらったことに対するお礼。イライは、今では、シェリーよりヒリットが好きになっていた〕
  
  
  
  

しかし、その夜も、父はまた天窓から外に出て行く。父は、イライを起こさないよう、イスを持参してきたが、イライは起きると天窓を開け、父の行き先を知ろうと、屋根に出る(1枚目の写真)。父が塀を乗り越えて行ったので、イライも塀を越えて後を追う。父は、路地の突き当たりの道路際に立っていた。イライは、こっそりと近くまで寄って行く。窪みから顔をこっそり様子を窺っていると(2枚目の写真)、やがて1台の高級車が横付けになる。運転しているのは、イライの知らない顔だ。父は、すぐに車に乗り込む(3枚目の写真、矢印は父)。
  
  
  

翌朝、イライが自転車で帰宅する途中、1台の小型車から「イライ」と呼ぶ声が聞こえ、イライの前で停車する。イライが自転車を降りて覗くと、中にいたのは、ロテムと母親。「やあ、具合は?」。ロテムは、イライがレイボの友達だと知っているので、前を睨んだまま一言も口をきかない(1枚目の写真)。母は、「ロテムは、軽い脳震盪で苦しんでるの。あと数日は、家で静養しないと。学校に行くのは、それからね」とイライに伝える(2枚目の写真)。母は、息子に、「それでいいわね」と訊く。「行きたくないבחיים לא」。「学校にちゃんと話したから、がき大将は罰せられてるわ」。「そんなの関係ない」。イライは、さすがにレイボが “お咎めなし” だったとは言えない。代わりに、「最近、学校 どうかしてる」と話す。ロテムは、「僕、吐き気がする」と言うが、これはイライの説明に対する返事ではなく、母に、現在の症状を訴えたもの。「先生が、良くなるだろうっておっしゃってたわ」。イライは、早く家に帰りたいので、ここで別ようとする。最後に、母親から、「そのうち 寄ってくれる?」と訊かれ、「できれば」と答える。
  
  

可哀相なロテムを見て動揺して帰宅したイライ。両親が見ているTVニュースでは、父と結託したとされる男の顔が映る。それは、昨夜、高級車を運転して来て父を乗せた男だった。母は、「あんな男、知ってる?」と夫に尋ねる。「TVで見ただけだ」。「この時、僕は悟った。すべてが嘘なんだって。人は、愛してるってだけで、その人を信用してしまう。僕は、二度とそんな間違いは起こさない」(1枚目の写真)。その時、父が、「イライ、ビールを持って来てくれ」と頼む。「イヤだ」。父は、言うことをきかない息子に、自宅監禁の重圧が重なり、精神崩壊を起こしそうになるが、イライは、その “ザマ” を冷たく見ているだけ。翌日、学校の門を出ようとすると、守衛がイライを呼び止め、「君のパパは、自宅監禁じゃなかったかい?」と尋ねる、「そうだけど、それが?」。「そこに、お迎えにみえてるぞ」(2枚目の写真)。イライは柵の所まで行って父の後姿を見る〔イライの姿はルームミラーで父にも見えている〕。イライは、守衛のところまで戻ると、「他の門から出てったと伝えて」と言い、父に会うのを避ける。生徒たちの流れと逆行して歩き始めたイライは、シェリーとぶつかる。彼女は、「ボーリング、楽しかったんだって?」と訊く。「うん」。「シュペアーは、別の専門家に診てもらうことになったの。2人の意見が同じだと、彼、9年生になるまで矯正具を外せない」。「可哀相だね」。「私、ヒリットを傷つけたくないの。だから、彼女を振って、1週間待ってから、私に申し込んで」。「どうして、僕と付き合いたいの?」(3枚目の写真)。「イヤなの?」。「今になって どうして?」。「気持ちを変えちゃ いけないの?」。「もちろん、いいよ」。
  
  
  

イライは、昨日の “招待” のことを覚えていて、家にはすぐに帰らず、ロテムの家を訪れる。ロテムの母は、イライの顔を見て喜ぶ。「来てくれて、ありがとう」。「長くはお邪魔できません。やることがあるので」(1枚目の写真)。「いいのよ」。イライが、ロテムの部屋に入っていくと、ロテムは動揺する。「ママが呼んだの?」。「違う」。「レイボがスパイしに寄こしたの?」。「スパイ? 君はいつから幼稚園児になったんだ?」。「先生が、宿題を持って来させたの?」。「君が元気かどうか見に来ただけ」(2枚目の写真)。「昨日から吐かなくなったけど、熱と頭痛は続いてる」。「君は運がいいよ。今朝、僕は、どれだけ熱が出て欲しかったか」。「友達に頼んで、頭を殴ってもらえばいいじゃないか」。イライが、ロテムの部屋の中を見回していると、壁に変なものが貼ってある。「これ何?」。「原爆のキノコ雲だよ。広島や長崎から57キロの地点で見えたもの。最初の原子爆弾がそこで落とされたんだ」。壁に貼ってある写真は、フランスが1970年にムルロワ環礁で行った4度目で最大の核実験(TNT火薬で914キロトン)のキノコ雲(http://www.themalaysiantimes.com.my/malaysia-strongly-condemns-north-koreas-missile-test/licorne-nuclear-test/)。57キロの意味も不明〔英語字幕では35マイルとなっているが、ヘブライ語字幕では57キロ〕。「なぜ、貼ってあるの?」。「だって 面白いだろ。考えてみろよ。原子なんて見えない。ちっちゃいから。だけど、一旦それを丸ごと分裂させると、心臓を撃たれたみたいになっちゃうんだ」〔被爆の惨状を無視した、こういう科学的な好奇心には、イスラエルにおける教育の欠如を覚える〕。「いい写真だね」。ロテムはポスターを外すと、「これあげる。サハラ砂漠の核実験のもあるから」と言って、イライに進呈する(3枚目の写真、矢印はポスター)。
  
  
  

歩道橋の上での、イライとレイボの重要な会話。「教えてよ。どうやって停学を免れたの?」(1枚目の写真)。「何で知りたい?」。「ただの好奇心」。「教えてやるけど、誰にも言うな」。「いいよ」。「魚が俺を逃がしたんだ」。「魚って?」。「ああ、魚なんだ」。「どうやって?」。「親父は、職員室にエアコンをつけるって校長に申し出た。プラス、校長室に水槽だ。小さなサメとかナマズとか藻そうとか入った奴。1.8メートルの大きさで、3000シケル〔約9万円〕ぐらいした。その時、イライの親父にも同じようにしてやって欲しい、刑務所も、自宅監禁も、裁判もなしにって話したら、親父に笑われちまった」。イライが帰宅すると、母と一緒に夕食の準備をしていた父が、「後5分で夕食だぞ」と声をかける。「ピザを食べてきた」。それだけ言うと、イライは父の後ろを素通りして部屋に向かおうとする。「何だ、それ? 新聞を読んだせいか?」。「嘘だと分かったから」(2枚目の写真)。イライは、完全に父を見放している。
  
  

イライが学校のトイレに行くと、個室から泣き声が聞こえる。イライが、「誰?」と訊くが、返事はない。カメラは、泣いているロテムを映す〔なぜ、泣いているのか分からない。レイボのことは、この時点では まだ知らないはず〕。イライは、ドアに顔を近づけ、ロテムに違いないと思う(1枚目の写真)。授業が始まると、そこにロテムが入って来る。レイボは、ロテムの頭のネット包帯を見て、「すごいセクシーな包帯だな」とからかう。教師は、「罰が足りなかったのね?」と叱るが、レイボは、「先生、思い出させないで。まだ立ち直れてないんだ」と白ぱくれ、生徒達から笑い声が漏れる。ロテムは、隣の子に、「何がおかしいの?」と尋ねる。「彼がうまくやったからさ。停学1日だけ」(2枚目の写真)。それを見ているイライの表情は厳しい。その日か、次の日かは分からないが、イライは廊下で新聞部の生徒を呼び止める。「次の新聞はいつ?」。「あと1週間」。「何か書いていいか?」。「君は、新聞が大嫌いだと思ってた」。「今は違う」。「もう紙面はほとんど埋まってる。スポーツについて書いてみるか?」。「ううん、できたら、もっと別のことが書きたい」(3枚目の写真)。「分かった。木曜の編集会議に出してみろよ」。
  
  
  

夜、イライはパソコンに向かって、新聞用の原稿を書く(1枚目の写真)。そして、場面は編集会議に。新聞部の面々は、あまりの衝撃的な内容に肝をつぶしている(2枚目の写真)。イライ:「どうしたの?」。「怖くないの?」。イライ:「レイボが?」。「校長は?」「ほとんどはレイボだよな」。イライ:「まあね」。「いいわ。載せることにする。でも、見出しは、『レイボの金魚דג הזהב של לייבו』に変えたいの」。「どんな魚が入ってるのか知らないよ」。「それは構わないの。おとぎ話みたいでしょ。願いを叶えた金魚」「去年、文学の授業で習ったの、聞いてなかった?」「金魚は、レイボを助け出した父さんのお金」。イライ:「そうか、分かったぞ。『レイボの金魚』か」(3枚目の写真)「それいいや」。
  
  
  

イライが、学校から出ようとすると、父が車の中ではなく、門の所で待ち構えていた(1枚目の写真)。これでは、どうしても一緒に行かざるを得ない。父は、運転しながら、「マクドナルドに行こう。その後、映画でも観に行かないか?」と誘う。「遠慮するよ」(2枚目の写真)。「じゃあ、何がしたいんだ?」。「何も」。父は、家に着くと、ダッシュボードの中に入れてあった白い封筒を取り出す。「それ何?」。「何でもない。忘れろ。いいから、お前のバッグパックの中に入れろ」〔これが、イライを待っていた目的〕。玄関の中に入ると、父はすぐ、イライのバッグパックのジッパーを開ける。イライは、背負ったままなので、何が起きているのか分からない。「何してるの?」。父は、何も言わずに封筒を取り出すと(3枚目の写真、矢印は封筒)、そのまま階段を駆け上がって行く。
  
  
  

数日後、学校新聞が刷り上る。電話中に新聞が届けられた校長は、思わず絶句し、電話を途中でやめる。秘書が、「どう対処しますか?」と訊くと。「何ができる? もう出てしまった。たわ言だ。たかが ガキの新聞じゃないか」と たかをくくる。新聞は、生徒達に配布される。一面には金魚の絵。事件性から見て、トップニュース扱いだ(1枚目の写真)。生徒達は新聞に釘付けとなる(2枚目の写真、右端は、まだ内容を知らないレイボ)。他の生徒が、話に夢中になっているレイボに注意喚起する。そして、記事を読んだレイボは、目の前に座っているイライを睨み付ける。「教えてやるが、誰にも言うな」と言った上で話した秘密を、こともあろうに、こんな形で公表されてしまったからだ。睨まれたイライも受けて立つ(4枚目の写真)〔授業中なので、何もできない〕
  
  
  
  

授業が終わると、イライは一目散に逃げる。しかし、自転車を鉄柵から外すのに時間がかかり、レイボに捕まる。「一番の親友だ? お前の親父なんか無期懲役になるがいい」。幸い、大人が、「どうしたんだ?」と介入したので、イライは自転車を全力で引っ張って階段を降り、逃げる(1枚目の写真、矢印はレイボ)。帰宅したイライは、父が1階にいることを確かめ、2階に行き、父の部屋を捜索する。途中で、携帯にメールが入る。レイボからだ。「このクソヤロー、バラバラにしてやるיא זבל, אנחנו נקרע אותך」。イライはめげずに捜索を続ける。そして、一番下の引き出しの衣類の下のあった白い封筒を見つける(2枚目の写真)。中に入っていたのは、父の偽造パスポートだった。名前の欄には「Aharon Shem-Tov」、さらに、「独身」と記載されている。
  
  
  

父が1人で国外逃亡を図っていると知ったイライは、そのままベッドに倒れ込む(1枚目の写真)。今度は、携帯に電話が入る。ロテムの母親からだった。「あなたが 素晴らしいことをしてくれたって、どうしても言いたかったの。あなたは、とても勇敢なのね。あなたが書いたことを読んで、感動したわ。学校だけでは終らせない。いいでしょ?」(2枚目の写真)。「いいよ」。
  
  

イライは、パトカーの中で警部に言われたことを考える。「もしパパがパニックになって国外逃亡を図れば、君はパパを失うことになる」「もし、逃亡する気配を感じたら、まず署まで来て欲しい。解決策を探ろう」の部分だ。そこで、イライは警察署に直行し、受付で、「警部さんと話せます?」と尋ねる(1枚目の写真)。日本では、もっといろいろ訊かれるのかもしれないが、ここでは簡単に「そこに、いらっしゃるわ」と言われただけ。イライが窓から覗くと、警部が容疑者を検分している。しかし、窓の所にイライがいると知ると、警部は、対応を部下に任せ、すぐに中に入ってくる。「イライ! サプライズだな! 元気か?」。「まあね」。「困ったことでも?」。「やまほど」。「おいで」。イライは、部屋に連れて行かれる(2枚目の写真)。「シェリーはどうなった?」。「さしあたり ヒリットと付き合ってる」。「取り替える気は?」。「分からない」。警部は思わず笑う。「何が可笑しいの?」。「そこがトリックの厄介なトコなんだ。取り替える前に立ち往生しちまう。その子が好きになったんだろ?」。「あなたにも あったの?」。「2度」。「なぜ、トリックを教える前に 話してくれなかったの?」。「高校が終わるまで、シェリー1人に縛りつけたくなかったからだ。せっかくの子供時代が無駄になるだろ。冗談じゃない。大事なことは、君が愛を見つけたことだ。ヒリットって可愛い名だな」。「特別なんだ」。「もうキスしたのか?」。「まだ」。「何をぐずぐずしてる」。この警官らしからぬ言葉に、イライは思わず満面の笑顔に(3枚目の写真)。「私は、これから会議がある。君は、ただ通りがかったのか、それとも、何か気にかかることがあるのか?」。「僕… 訊きたいことがあって… この前、あなたが学校に来た時、どうしてパパが国外逃亡を図ろうとするって思ったの?」。「私には、人が分かるんだ。君のパパは特別だ。君に似てる。自由が好きで、刑務所向きじゃない」。この言葉を聞き、イライは、ポケットに入れたパスポートを出そうとする。「そこに何を持ってる?」。不幸なことに、そこに警官が割り込んできて、別の相談をする。そのお陰で、イライが偽装パスポートを警部に見せて相談する機会は失われた。
  
  
  

イライは、警部にプッシュされたことでもあり、ヒリットに会いにボーリング場に行く。そして、「やあ」と声をかけると、いきなり頬を叩かれる。「何するんだ?」。「そっちこそ、何したのよ? 『あの尻軽に手を出せ』。最初から、それしか考えてなかったのね。シェリーと付き合いたいから、私に声をかけた。そうでしょ?」(1枚目の写真)。「そんな話、どこで?」。「よく言うわね。レイボが全部話してくれたわ」。イライは、ヒリットに100%嫌われてしまった。イライに降りかかった災難はこれだけではない。次の日、イライが校庭の隅の階段に座っていると、そこにレイボが現れる。「学校にツラを出す根性があったのか? 俺は、これ以上面倒に巻き込まれたくない。夜7時に校庭に来い。そしたら、許してやる」(2枚目の写真)。そう言うと去って行くが、顔を出したら何をされるか分からない。
  
  

授業が始まると、ロテムが授業を妨害するように歌い始める(1枚目の写真)。教師がどう警告しても止めないので、「すぐ、校長室に行きなさい!」と言われる。これは、授業中に校長室に “行かされる” ための、ロテムの作戦だった。ロテムは、一旦校庭に行き、自分が殴られたと同じようなレンガを拾う。そして、レンガをズボンのポケットに隠すと、校長室をノックする。「何を歌ったんだ?」と訊かれたロテムは、何も答えずに、校長を睨みつける。そして、いきなり、後ろを向くと、水槽にレンガを投げつける。ガラスは割れ、中の水が魚と一緒に部屋の中に溢れ出す(2枚目の写真)。学校新聞で事情を知ったロテムは、レイボを無罪にした水槽に復讐したのだ。校長には、それを咎める権限はどこにもない。もし、何か行動を起こせば、事態は自分の首を絞めるだけだ。だから、「クラスに戻ってくれないか」としか言えない。
  
  

次のシーンでは、父が、家に届いた新聞を見ている(1枚目の写真)。その一面の見出しは、「『腐敗した建築家』の息子、学校の腐敗を暴く」というものだ。これで、校長の面子は丸潰れとなる。以前、ロテムの母が「学校だけでは終らせない。いいでしょ?」と言っていたのは、このことだった。そこに、イライが帰宅する。父は、「イライ、ここに来い」と呼び寄せる。そして、新聞を見せ、「これは… 素晴らしい。偉いぞ」と褒める(2枚目の写真、矢印は新聞)。ここからが、2つ目の重要な会話。「ママは、今夜10時に帰宅する。パパは、しばらく出かけなくちゃならん」。「『ホワイトカラー』刑務所に1年半入るだけで済むんだよ。僕達、好きなだけパパを訪問できる。刑期が終わったら すべて元通りになる。僕、白い封筒開けたんだ」。その言葉に、父はハッとする。そして、イライを横に座らせる。「プレイステーションをやってて、突然ゲームオーバーになった経験あるだろ? 今のパパがそうなんだ。パパには、それを乗り越える力がない」。「いつ、出てくの?」。「今夜だ」(3枚目の写真)。「船で?」。頷く。「僕達を愛してないの?」。「何を言い出す。愛してるに決まってるだろ」。「だけど、自分の方が大切なんだ」。「そうじゃない」。「ママに電話するよ」。「ママは知ってる。いいか、1年に一度 会いに来たらいい。友達と一緒に来でもいいんだ」。「そんなの嘘だ。これまでずっと嘘ついてきたように、また嘘をついてる!」。「パパは10日間、刑務所にいた。それが、1年半なんだぞ! 耐えられるはずがない」。イライは、黙って立ち上がる。「パパが出てくのは、8時だ。さよならを言いに来てくれるか?」。イライは、何も言わずに玄関から出て行く。そして、冒頭の自転車のシーンになる。
  
  
  

イライが向かった先は、どこなのか よく分からない。狭いコンクリートの隙間のような場所で、暗くなるまで壁に向かってボールを投げ続ける。一方、校庭でイライが来るのを待っていたレイボは、7時になっても姿を見せないので、一緒にいた4人に、「あのクソ野郎を捜すぞ」と命じる。父のことしか考えていないイライは、これからどうすべきか、壁にもたれて考える(1枚目の写真)。そして、遂に決心すると、携帯を手にし、警部に電話をかける。署では、面通しの最中だったが、発信者の名を見ると、電話に出る。「もしもし」。「警部さん?」。「そうだ、イライ どうした? どんな用件だ?」。「僕… あなたに… 来て欲しいんだ… マリーナに。今すぐ」。「マリーナ?」。「出てかないよう、パパを説得して欲しい。僕と一緒になって」(2枚目の写真)。「イライ、君は、私が警官だということを忘れちゃいかん。君のパパが過ちを犯せば、償わねばならん。悪いが、仕方ない」。
  
  

こうなっては、もう一度、自分で父を説得するしかない。そこで、イライは全力で自転車をこぐ。しかし、いつもの歩道橋に差し掛かった時、前方からレイボ達が現れる。イライは、「レイボ、お願いだ、明日、10倍僕を殴っていいから、今日は行かせて」と頼む。しかし、話は聞いてもらえず 殴り倒される(1枚目の写真)。イライは、体を起こすと同時に、足でレイボの急所を蹴る。4人は、苦しさにうずくまったレイボを心配するだけで、イライが逃げるのを邪魔立てはしない(2枚目の写真、矢印)。
  
  

しかし、自転車を失ったダメージは大きく、全速で走っても8時までにマリーナに着くことはできない(1枚目の写真)。クルーザーが係留してある桟橋に通じるフェンス・ゲートの鍵はもう閉まっていた(2枚目の写真)。クルーザーは、イライが見ている前で出航していく。イライは、マリーナの上に架かる橋の上まで行くと、港を出て行くクルーザーに向かって、声を張り上げて叫ぶ。「この いくじなし!! 何で逃げる!? 何で僕を見捨てる!?」(3枚目の写真)。
  
  
  

クルーザーの操船は協力者に任せ、デッキに出てイスラエルの空気を吸っていた父は、デッキの端に彫られた「イライ」の文字に気付く(1枚目の写真)。その文字に触れているうち、父は自分の愚かさに気付く。そして、操舵室に入って行くと、「戻してくれ」と頼む。「何?」。「船を戻してくれ」。イライがじっと見ていると、クルーザーが180度向きを変え、こちらの方に戻り始める。その時の操舵室の様子が2枚目の写真。矢印は、待機していた警察の船。クルーザーが向きを変え終わるのを待っていたかのように、サーチライトが点灯し、警察の船が横付けする。乗船してきたのは警部。父は、覚悟を決めて船室でぐったりと待っている。「バカンスにお出かけかね、ヤシフさん? パスポートを拝見」。父は、偽造パスポートを渡す(3枚目の写真、矢印はパスポート)。「アーウォン・シャントウ。いい名前ですな。どうなるか分かっていますね?」。父は頷く。そして、警察の船に移される。
  
  
  

イライは、埠頭まで歩いて行くと、父を乗せた警察船が接岸したところだった。父は、立って待っているイライを見つけると、抱きしめる。警官に促されると、イライの顔を指で触る(1枚目の写真)。イライが、パトカーに乗せられた父を見ていると、最後に船から下りた警部がやってくる。イライは、警部に、「パパは戻ろうとしたよ。見てたでしょ。向きを変えたところを」と必死に訴える。「ああ、見た」。そう言うと、さっき取り上げたパスポートを手に持ち、イライの顔を見て、そのひたむきさに心を打たれたのか、パスポートを渡してくれる(2枚目の写真)。そして、「彼は、裁判の前に、少しだけ船に乗りたかっただけだ。違反行為ではあるが、罪状に変更はない」と言い、イライの頭を撫でる。イライは、ホッとした顔で、パトカーの父を見る(3枚目の写真)。イライが警部に電話しなかったら、父は、恐らく違法出国に成功していたであろう。しかし、家族は永久にバラバラになる。電話していても、父が引き返さなかったら、重罪となり、やはり会うことは困難な状況になる。
  
  
  

授業中。イライは、メモに何かを書いて、それを畳むと隣の子に渡す。そのメモが次の子に渡る時、目ざとい教師に見つかる。メモを取り上げた教師は、畳んだメモを手に持つと、「誰が書いたの?」と全員に問いかける(1枚目の写真)。イライは、「僕です」と答える。「ルールは知ってるわね」。教師は生徒たちの前でメモを読み上げる。「僕の、ガールフレンドにならない?」。これを聞いて、あちこちから笑い声が聞こえるが、嬉しそうに微笑んだのは、シェリー。「誰に出したの?」。「ヒリットに」。教師は、メモをヒリットに渡し、「授業が終わったら、返事なさい」と言う〔結構、よくできたルール〕。しかし、ヒリットは、イライの方を見ると、にっこり笑って頷く(2枚目の写真)。すぐにOKの返事がもらえてイライも嬉しそうだ(3枚目の写真)。
  
  
  

最後のシーンは、イライの家での朝食の時間。ラジオが、「ベン・ヤシフ、元・ヘルツリーヤ市の建築家の公判は、今朝始まります」と言っている(1枚目の写真)。母が、「行きましょうか?」と言い、父はカバンを持ち、席を立つ。まず、母が、イライを抱きしめ、父は、手をポンと合わせて(2枚目の写真)、裁判に向かう。玄関を出る時、父がにこやかにイライの顔を見ることで、2人の仲が完全に元通りになっていることが分かる。
  
  

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